＃致命的なネタバレはないですが、微妙にネタを割ってるところがあるかも。予備知識を嫌う方はご注意ください。

＃パッケージに記載されている惹句、「イベントグラフィック150枚・グラフィック総数500枚以上・シナリオ枚数5000枚」。つまり、かなりの分量があってCGの表情変化（書き換え）が多いってことですね。確かにこれは間違い無いです、ハイ。

システム。高橋直樹さんが制作されている「NScripter」が使われています。「フルスクリーン/ウィンドウ表示」「フォント選択」「表示・デフォルト/1ページごと」「文字速度・低速/普通/高速」「WAVE・オン/オフ」「選択肢まで進む」「CD-DA・演奏ドライブ選択/オン・オフ」と必要最低限の機能は備えられていますので大きな不満を感じることは無いと思われますが、ノベルゲームに良くある「読み返し」機能は付いていません。また、オプションとして「グラフィックモード（画像閲覧）」「エンディングリスト（エンディング一覧）」「ゲーム設定・【エフェクト瞬間表示】オン・オフ/【既読文章のスキップ】オン・オフ」が実装されていて、既読部分はシーンごと飛ばすことが出来るようになっています（早送りはしてくれません）。

登場人物（名前の読みはこれで良いのかな？ もし間違っていたら教えていただけると有り難いです）。

遠野志貴（とおの・しき）。この物語の主人公で仮想プレイヤーキャラクター。幼少時より「わいはふつーのにんげんとちゃうんやぁ」（別に関西弁キャラじゃないけど）と認識しながらもこれまで何事も無く暮らしてきた。特技は悪夢を見ること。

アルクェイド・ブリュンスタッド。この物語のヒロインで「真祖」と呼ばれる吸血鬼のお姫さま。昼間出歩くのは平気で血を嫌っている。とある使命を達成することのみを目的とし、寝たり起きたりな生活。実際に活動しているのは1年未満。

シエル。何だか良く分からない先輩。言葉使いが丁寧で物腰も柔らかいために、面倒見が良く「いい人」そうに見える。トレードマークはメガネと笑顔、テキパキとした仕草。この物語の中では地味であることを運命付けられているようだ。

遠野秋葉（とおの・あきは）。ぺた黒髪な妹さん。昔は主人公に懐いて可愛い人だったのに久しぶりに再会すると無表情で怖そうなお嬢様になっていた。長い間家を離れていた兄に対して屈折した感情があるらしく、ぷんすかしている。

翡翠（ひすい）。遠野家の使用人、双子の妹。両親が他界したおり主人公の父「遠野槇久」に引き取られ、幼い頃から遠野家に仕えている。めったに感情を表に出さず、ひたすら使用人としての職能を追求している。料理が苦手。

琥珀（こはく）。同じく遠野家の使用人、双子の姉。妹の翡翠とは対照的に明るい性格で、主に料理を担当している。しかし何故か壊滅的に掃除が下手。いつもにこやかだけど実は遠野家にまつわる謎を一手に引き受けるたいへんな人。

不具合。メーカーサイトのサポート掲示板でいくつか障害が報告されているようですが、私のところではプレイ後半になって選択肢の上にマウスカーソルを乗せるとそのままクラッシュする（一般保護違反を起こす）現象が出ました。これは数日前のセーブデータをロードしてやり直すことで回避できましたが、詳しい原因は不明です。環境依存かNScripterのバグかなんでしょうけど、特に修正ファイルの類は配布されていないようですね。評判を見ている限りではあまり聞く話ではないので、ほとんどの方は問題なく動作しているものと思われます。アプリがぱたっと落ちるなんて久しぶり…。

グラフィック。メーカーサイトにサンプルが置いてありますのでそちらを参照するのがいちばん分かりやすいと思いますが、第一印象では「嫌いではないけど特に好みでもない」と言う人が多そうな絵柄かなと感じられました。嫌味がないかわりに強く印象に残る個性も希薄かなと（サイトを拝見するとデフォルメされたキャラクターを描くのがたいへん上手な方だなと思います）。また、制作期間が長かったせいか多少グラフィックの出来にばらつきがあるように思えました。立ち絵の切り替え時には微妙に別人になるような気がしますが私は好みの絵柄だったので許容範囲内、柔らかさを感じます。

音楽。プレイ時間が長丁場になるので、1周するだけなら問題なくても2周・3周と繰り返すうちにどうしても同じ曲を何度も聞かされているなと思わざるを得ませんでした。しかし曲自体はうるさくもなく、かと言って沈むこともない絶妙なバランスだったと思います。そうですね、せめてメインキャラクターのテーマ曲的なものをあと5曲程度用意出来ていればもう少し場が繋ぎやすかったかなと。まあ、BGMに流れる曲の力はとても強くてシナリオを阻害することも多々あるので、これくらいでちょうど良かったのかも知れません。時折入る効果音は少し平凡かなと言う気もしますが、文字通り効果的。

シナリオ。「アルクェイド/シエル/秋葉/翡翠/琥珀」の5つのルートが用意されており、それぞれトゥルー・グッド・ノーマルエンドに分岐します。オフィシャルによると、推奨プレイ順番は『アルクェイド＝シエル＞秋葉＞翡翠＞琥珀』なんだそうですが、私は『シエル＞アルクェイド＞翡翠＞秋葉＞琥珀』の順番でした。それぞれに掛かった時間は『8時間＞6時間＞5時間＞5時間＞4時間』ってとこでしょうか。ノベルとしてはずいぶんと時間の掛かるものに仕上がってますね。

このゲームのシナリオは「アルクェイド/シエル」の吸血鬼ルートと「秋葉/翡翠/琥珀」の遠野家ルートに2別できますが、両者ともに要となるミスディレクションが用意されているので緊張感を保ったまま読み進めることが出来ましたし、結果的にミステリ色が強く感じられるものになっています。例えてみればプレイ序盤は「ホラー/アクション」寄りで後半は「伝奇/ミステリ」寄りになってるとでも言えるでしょうか。少し冗長に感じたのは主人公の内面描写と独白の部分ですが、これを削るのは難しいでしょうね。見た目としては、改行がどうしても多くなるのでいざと言う時に効果が薄まるってとこかな。

18禁度。血まみれだったりバラバラだったりするところは十分に18禁ですが、エロを求めてもあまり報われないかと思います。グラフィックの印象もあるかもしれませんが、濡れ場の文章もどことなく柔らかくて「成年向け」って感じ。やることはちゃんとやってるし一部しつこいくらいなんですが、「使える」かと言うとそれは難しいのではないかと思います。いやもう書いている方は頑張って書いているんだろうなと思わせられて、読んでる側も真面目に読まないといかんかなあと思ってしまうんですよね…。個人的な感想だと「残念賞ーー！！」とか「努力賞ーー！！」ってとこに落ち着いてしまいます。

総評。なーがーいー。っつーても、文章が過度にくどい訳でもシナリオの分量が多すぎる訳でもなく、ビジュアルノベルのお約束である改行の多さと豊富な表情変化が仇になって物理的な時間が掛かるだけなんですね…。テキストを「1ページごとに表示する」ようにしても画面書き換え時に文字も（一時的に）消えてしまうので読んでる最中にテキストが出たり消えたりしていちいち引っ掛かるし。せめて文字は表示したまま書き換えを行って欲しかったけど、やはり技術的に無理なんでしょうか。ともあれ、読み物として見れば表（アルクェイド/シエル）の2本を読んでからの翡翠ルートはお見事としか言いようのない出来だったと思いますし、この時点で満足度はかなり高かったです。そのおかげで残っていた秋葉/琥珀ルートが蛇足とまでは言わないにしても長ったらしく感じてしまったのが不幸と言うものなのでしょう。これを制作されたスタッフの皆さんには心より「お疲れさまでした」と言いたい気分でもあるし、値段を考えれば100点満点でもOK。